朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
「はい! で、いつにしますか、有希お嬢さま」
「明日」
「あしたぁ!?」
思い立ったらすぐ行動ってやつか。
「光陰矢の如し、よ」
「なにそれ」
「月日が経つのは、矢が放たれたみたいに早いってこと」
「つまり?」
「毎日の一瞬一瞬を大事にしろってことよ」
確かに余命宣告されてる僕にはそんな感覚が、しっくりくる。
「分かった。茜さんには電話しとく。また明日の10時にいつものところに来てもらう」
「制服は?」
「それ、そんなに大事か?」
「だって私、不登校だもん。制服とかまともに着たことない」
「分かった。茜さんに9時半に来てもらって話はつけとく!」
すると、有希の小さな温かい手が伸びてきて僕の頭の上に乗る。
「よしよし」
そういって撫でてくる。
僕はその一瞬で泣きそうになる。
最近はすぐに泣いてしまいそうになるのだ。
たったこれだけのことが苦しくて愛おしい。
揺れる、どこまでも揺れる想いがある。
ーー好きだ。
なのに。
「お願いを聞いて欲しい。今は、友達でいて」
そう言われたら揺れるしかない。
今は、じゃあその先は?
揺れる。
僕の心は揺れ続ける。
「ーー有希」
「湊月。明日、高校、楽しみだね」
遮るように有希は言った。
このわがままで口が悪くてどうしようもない少女に僕はいつまでも振り回されるしかないのだ。


