朝日有希の本当の名前を、僕はまだ知らない
思わず、イラッとしてしまった。

この状況でいじけない奴がいるかよ?

死ぬんだぞ。終わりだぞ。



「あ、怒った。そっちの方が湊月らしいよ。私も素で行けるわ。私ね、かなり性格悪いし、空気読めないの。友達だって一人もいない」



「たった今、何となくその意味分かった気がする」



「ふふっ。その調子。ねぇ湊月。怒らなくてもいいんだよ。怖がらなくても。死ぬってことは生きるってこととそんなに変わらない。私はそう思う」



有希は笑った。

笑うとものすごい可愛い。

こんなに可愛かったら、なんでも許してしまう。

ものすごいずるい。



「そうも言えるかも。さっきはイラっとしてごめん」



「ううん。私も言いたいことはなんでも言うし、ワガママも普通に言うわ。その代わり嫌なら断ってくれていい。だから、私たち普通に友達にならない?」



「いいよ。よろしく」



僕は手を出した。

有希は不思議そうにしばらく手を眺めたあと、握り返した。

細くて白くてガラスみたいに冷たくて。

すぐに折れてしまいそうな手だった。



「じゃあ、また明日ね」



「あぁ、また明日」



有希は部屋を出ていった。

すっかり部屋の中が暗くなっていたので、僕は電気をつけた。

誰かにまた明日と言ったのは、いつ以来だろうと思った。

胸の中に少しだけ明かりが灯った。そんな気がした。
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