この恋、上方修正銘柄です!
電車が失速し、車内アナウンスが目的地の駅名を告げる。
こんな風に、九条との想い出を大事に抱えて生きている。そしてそれはきっと、一生続く。
相変わらず九条とは密着したままだったが、少しずつ頭が冷えてきた。
視線を上に向ける。九条が目を閉じているのを良いことに、その端正な顔をじっと眺めた。
叶わないなら最初から何も望まなければ良い。
もうすぐ九条はいなくなる。
喉にこみ上げる淋しさを飲み込んだ。
満員電車から無事生還して改札をくぐる。途中、何度か徐行したせいで遅くなったが、朝礼には充分間に合う時間だ。
すぐ後ろを歩く九条は人混みから守ってくれていたせいか、酷くグッタリしている。心配になり、大丈夫かと声をかけた。
「うん、めっちゃ元気やし、気にすんな。……手に負えへんくらいやから」
途中からは声が小さくて聞き取れない。
「向こうで日本文化を紹介すんのに覚えた般若心経が、まさかこんな時に役立つとは思わんかったわ……。降りる駅があと一駅遠かったらヤバかったマジで……何の修行なんコレ」
「え、何か言った?」
「な、何でもない!」
地下鉄の階段を上り、地上に出る。明け方まで降っていた雨で、街路樹の緑が濃い。
並んで歩く時、錦の歩幅に合わせてくれていることも高校時代から知っている。
こんな風に九条の隣に居られる日が、あと何日あるだろう。