この恋、上方修正銘柄です!
「あかん!」
急に叫んだ九条にビクッとする。
「ハニートラップで大事なこと忘れてた。今日こそちゃんと顔見て話そうと思ってたのに!」
九条の言う通り、一度きちんと向き合うべきなのかもしれない。
「……じゃあ、聞く」
「何回も言ってるけど、クロエと俺は高辻が思うような仲じゃないから。ただ、現時点では色々言えへんことがあるっていうか……俺のことだけで済む話じゃないから」
「九条くんとクロエさん、ふたりの問題ってこと?」
「うん?いや、何かその言い方おかしいぞ。絶対違う感じで思てるやろ。あーーあかん、地雷があり過ぎてムリ!そっちは一旦置いといて、俺と高辻のこと話そ」
銀行の通用口を抜けながら、
「心配しなくても、セクハラで訴えたりしないから」
「待て待て、そんなこと心配してへんし!昔の俺知ってたら信用出来ひんのも分かるけど、俺がああいう事したい相手は高辻だけ……」
と、言いかけた九条が口を噤む。
オートロック式の鉄製扉の前で、見慣れない顔の年配男性達がどーんと待ち構えていたからだ。
「え、なに、このおっちゃんら」
耳元でこっそり尋ねる九条に、
「……大変。内部検査が入ったみたい」
検査部の抜き打ち検査。三年に一度くらいの頻度だから、そろそろだとは思ってた。
今頃、融資課はパニックになってる筈。
ロッカーやデスクの鍵のチェックから、前日の処理済伝票や融資ファイルまでこと細かに調べられる。重大なミスがあれば始末書ものだ。
鞄の中身を見せるよう言われる錦の隣で、
「君は?」
「僕は手ぶらなので」
と、九条が両手を上げてみせる。
「で、俺は高辻のことが……ってあれ、高辻サン?」
九条が見たのは先を急ぐ錦の後ろ姿だった。