この恋、上方修正銘柄です!

 乾課長に声を掛け、証書貸付の契約書類を見直す大原達を手伝うことにする。五十音別に綴じられた台帳の冊子を金庫から持ってきて、不備がないかチェックをしていく。
 めくること数ページ、担保差入証書の債務者住所欄に書き損じがあって、そこに訂正印がないことに気付き、さっと血の気が引く。担当者欄に自分の押印があったからだ。異動してきてすぐの頃の日付だ。

 慌てて乾に報告し、担当の伏見に連絡を取ってもらう。
「繋がりましたが、午後からは韓国に出張だそうです」
 乾は時計を見て、
「よし、まだ時間はあるな。悪いが訂正印を貰って来てくれるか?」
 はい、と返事をしたものの、伏見は困った顔で、
「前回、融資を断ってから関係悪化しちゃって。結局第一地銀で借りれたみたいなんですが、預金も全部引き上げられたし、行ったら何言われるか……」
 ただでさえ、遠方の担保物件の写真を撮ってこいだの追加書類を出してもらえだの、検査に振り回され忙しく走り回っている渉外に余計な負担はかけられない。

「……という事情で、私、今から行ってきます」
 そう報告すると、九条は椅子から上着を取って立ち上がった。
「俺が代わりに行く。高辻は残ってろ」
「いえ、私のミスなので私が行きます」
 この押し問答を何度か続けた後、結局折れたのは九条だった。
「なら車出すから乗ってけ。この時間なら電車より早い。東山、悪いが午前中のアポはリスケで頼む。高崎専務から電話があるだろうけど、何度言われてもくだんの件は対応が困難だと丁重に断っといてくれ。次長、社用車お借りします」
 次長席の後方にあるパンチングボードに掛けられた軽自動車の鍵を取る。一連のスムーズな動きに断る暇もなく、九条の申し出に甘えることにした。

< 106 / 162 >

この作品をシェア

pagetop