この恋、上方修正銘柄です!
「試験開始時刻20分前。思ってたより時間がかかってしもたけど、何とか間に合ったな」
地下2階の駐車場に車を停めて九条が言った。
「一緒に来てもらえて本当に助かりました。ありがとう、九条くん」
「上司なんやし当たり前や。証書は俺から乾課長に渡しとくから。これで始末書はセーフなんやろ」
着いた先ではすこぶる不機嫌な社長が待っていて、まずは文句から始まった。
九条が絶妙な間で宥めすかした結果、最後には機嫌良く印鑑を押してもらえ、しかも投資信託契約というオマケつき。まさに九条の人たらしマジック。
エアコンの効いた車を降りると、ムンとした熱気が体を包む。降り始めた雨の匂いがする。
「暑っついな〜日本の梅雨。昼抜きで平気か」
「ちょっと食欲なくて」
車に酔ったのか、気分が悪いし頭が痛い。と、額に大きな手が当てられ、
「熱はないみたい。とりあえずこのスポドリ飲んどけ。試験と面接が終わったら連絡して。店に戻る前に、メシおごったる」
「この前といい今日といい、九条くん、彼女以外にはおごらないんじゃなかったの?」
「うわ、このタイミングでそこ切り込んで来る?」
誰もいない駐車場のエレベーターに、九条に続いて乗り込む。さっきの不意打ちスキンシップのせいか、まだ心臓がバクバクしている。
背を向けた九条が10階のボタンだけを押した。どうやら送ってくれるらしい。腕時計を確認する後ろ姿をぼんやりと眺めた。
エレベーターがゆっくりと動き出す。そのふわりと浮遊する感覚に冷や汗が出る。
気持ち悪い。吐きそう。今すぐ降りたい。そう言いたいのに言葉が追い付かない。
キーンと耳鳴りがして、目の前の光景に灰色の靄がかかっていく。
広い背中、助けを求めるようにスーツの裾を引っ張ると、九条が振り返った。
「え、高辻……!?」
その声を最後に、意識は途絶えた。