この恋、上方修正銘柄です!
「九条くん、今までありがとう」
「何や、急に改まって。大体、俺何もしてへんし。世話になったんは俺の方や」
ううん、と首を振った。何か言ったら、泣いてしまいそうだった。
「高辻、元気でな、頑張れよ。って俺が言わんでも頑張ると思うけど。俺が経営者になったら顧問税理士として雇ったるから、そん時はヨロシクな」
「うん、九条くんも……」
元気で、と言いたかったのに、言葉が喉に絡まってつかえた。
涙で視界が滲んだ。
「卒業式でも泣かんかったくせに。今更、何、泣いてんねん」
「自分でも、よく、分からない……」
例え外国に行かなくても、卒業したら九条とは会わなくなるだろう。課題を見せろだの試験のヤマをはれだの、うるさく言われることもない。
それが今、こんなにも淋しい。
泣き顔を見られたくなくて、背を向けた。
「先、教室戻ってて。私、後から行くから」
「置いていけるワケないやろ」
後ろから肩を掴まれたと思った次の瞬間、強い力で胸に引き寄せられた。
「……ちょっとだけ、ハグの練習させて」
女子の扱いに慣れている九条らしい別れの挨拶だと思った。これでお別れだと思った。
その後、渡米した九条からは、潔いほど一切の連絡がなかった。綾乃には深くは聞けなかったけれど、「もう良いの、あんな奴」と笑っていた。
1年が過ぎても九条は帰って来なかった。そのうち綾乃には同じ学部の彼氏が出来た。
2年が経ち、3年が過ぎた。
噂で九条は向こうの大学に入って学生をしていると聞いた。彼は日本ではなくアメリカで、やりたいことを見つけたのだと思った。
更に月日は流れ、あの頃の高校生達は、それぞれの人生を歩み始めた。
もう戻れない青春時代を、一抹の後悔と共に、大切に抱えながら―――