この恋、上方修正銘柄です!

8-3


「……高辻?」
 名前を呼ばれて瞼を開けると、心配そうに見下ろす九条の顔が見えた。
「……九条、くん」
 目の前の状況と、最後の記憶を照らし合わそうとするが、うまく頭が回らない。
 違和感のある左手を見ると点滴がつながれていて、そこでようやく寝ているのが病院のベッドだと気が付いた。

「エレベーターに乗ってて倒れたんや」
 そうだった。
 九条が抱えて近くの病院に担ぎ込んでくれたような気がする。
「あ……試験と面接」
 九条の視線が右下に逸れる。
「残念やけど、別の奴に決まったって」
「……そっか」
「睡眠不足に疲労、熱中症、その他諸々。ぶっ倒れるまで勉強するとか、今時の高校生でもせえへんで。そうそう、人事部が家に連絡したけど留守やったって」
「……緊急連絡先、書き換えるの忘れてた。両親は昨年から海外移住生活で、弟は結婚して家を出てるから」
「……それならそうと早よ言えよ」
「……ごめんなさい」

「違う、そうじゃなくて!メシ、ちゃんと食ってなかったんやろ。俺、一人暮らし歴何年やと思ってんねん。言ってくれたら幾らでも作ってやったのに」
 優しい言葉。勘違いしそうになるから、そういうことを言うのはやめて欲しい。
「一応、大事をとって一晩泊まって、明日の午前中に退院したらって先生が……っていうか、その先生が……!」

 言いかけて、九条は急に言葉を詰まらせた。
「なに?先生が、どうかしたの?」
「あ、うん……。それは一旦置いといて。個室代とか諸々の費用は労災が適応されるから、遠慮なく入院してええで」
 その言い方に少し笑ったが、かつて労災が適応されなかった上司の顔が浮かんで胸が痛んだ。
「……九条くんが交渉してくれたの?その手の事にうるさいうちの次長がよく了承したね」
「そんなん当たり前や」

「あ、そうだ、亀山……」
 いや、一晩くらい大丈夫か。明日の午前中には帰れるのだから、と考えていると。

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