この恋、上方修正銘柄です!
「……誰、そいつ」
あからさまに不機嫌になった九条に、首を傾げながら、
「うちで飼ってる亀。一日くらいは平気かな、って」
「ああ、なんや、亀か。ハハッ、誰がそんな名前つけてん、オモロイやんか」
九条の機嫌は、元通りになっていた。
もしかして、亀山の事を男だと思って嫉妬したのだろうか。いや、そんな筈はない。
と、あれこれ考えていると、大きな手が労うように伸びて来て。
「ごめんな。体調悪いの気づいてやれんくて」
頭を撫でられる感触が優しくて目を瞑る。
「あんまり一人で頑張んな。困ったことがあったら、いつでも相談乗るから」
こんな風に優しくされると期待してしまう。そんなこと、昔も今もあり得ないのに。
「……夢と理想を持って就職したけど、現実は厳しい。理不尽なこと、落ち込むことが毎日沢山ある。それでも私はここで上を目指すって決めたから……」
「それで、選抜試験受けようと思ったん?相変わらずやな」
「相変わらず……本当にそう。今も時々考える。銀行じゃなくて税理士法人に就職した方が良かったんじゃないかって。税理士になった友達の話を聞いたりすると、特に。やっぱり選ばなかった方を後悔してる。九条くんは覚えてないだろうけど、昔、そういう話をしたことがあるの。私が決められない時は九条くんが決めてくれる、って。けど、もう九条くんはいなかったから……」
もらったサイコロで決めた。
そう正直に話したら、九条は呆れるだろうか。
試験を受けられなかったこと。
アメリカへ行くと告げられた卒業式の日の記憶。
昔も今も、九条の隣にはいつも特定の誰かがいて。自分の番は、永遠に回って来ない。
今まで我慢していた淋しさや切なさ、悔しさが一気にやってきて、堪えきれなくなった涙が込み上げた。
泣き顔を見られたくなくて、手の甲で顔を隠す。
「……いつもそう。勝手に踏み込んできて、人の気持ちかき乱して、気まぐれにいなくなる。九条くんには残された側の気持ちなんて、きっと一生分からない。……いなくなった時にまた、あの時みたいな空っぽの気持ちにならないように。それにはもう、仕事しかないから……だから試験を受けようと思った。けど、結局それもうまくいかなくて……だから九条くんになんて、今更会いたくなかったのに……!」
これ以上、関わらないで欲しい。
早くここから出て行って欲しい。
「……ごめん、今の、八つ当たり。一人で大丈夫だから……」