この恋、上方修正銘柄です!

「今から考えたら、もっと力になれることがあったと思う。でも、当時の私は自分のことに精一杯で……」
「それ、円形脱毛症になった原因のヤツ?」
「……休みの日、銀行の看板を見るだけでゾッとする位、会社へ行くのが嫌で仕方がなかった。そんな風だったから、ある日、取引先から担保として預かった約束手形を失くしてしまって。シュレッダーにかけたのかもとパニックになったんだけど、結局直前に書いてた稟議書に挟まってた。ミスをした時、責めるだけで知らん顔する上司も多いのに……甲斐課長は、紙屑まみれになりながら、夜中まで一緒に探してくれた」

 つ、と両頬を熱いものが流れ落ちた。この前から、涙腺がゆるくなっている。

「独身で、一人暮らしだったの。見つけたのは、当時課長代理だった土屋さんと、渉外課にいた紫野さん……二人は同期で仲が良かったから……それと、私」

ーーーあの日。
 無断欠勤が続き、メッセージの既読もつかず、会社帰りに家を訪ねてみるという土屋に紫野と付いて行った。
 事情を話すと管理人が鍵を開けてくれて、先に中に入った土屋が叫んだ。
「来るな!」
 その一言で、何が起きているのかが分かったーーー

「発見が早ければ、もしかしたら助かったかもしれない。責任感が強くて、とても優しい人だったのに、私、何にもしてあげられなかった……ずっと、ずっと後悔してる……」

「……高辻のせいじゃない。その時その場で、高辻なりにできる限りのことをやってきたんやろ?大丈夫、俺には分かる」
 優しく涙を拭われて、
「ひとりで辛かったな。こっち、おいで?慰めたるから」
 九条の腕の中にぽすんと収まる。
 広い肩幅、厚い胸板。あやすように頭を撫でられ目を閉じる。 

「俺じゃない男のことで泣くな」 
 鼻先をくすぐるキャラメルの香り。
 自分が普段使っているボディソープの匂いが九条からする。それは、とても幸せな感覚で。

 額にかかる、まだ少し湿った髪に手を伸ばす。
「……九条くんが前髪おろしてるの、好き」
「え、マジか。明日からおろしていこかな」
「高校時代の髪型もすごく好きだった。サイドをねじってピンで留めてたやつ。また見たい」
「そうなん!?」
「うん。昔からずーっとカッコいい。だから今もまだ、九条くんが私のこと好きだなんて信じられない。いつか夢から醒めるんじゃないか、って」
「……そんなん俺もおんなじや。高辻と両想いとか夢みたい」
 錦の額にチュッと唇を落としたあと、髪を指先ですべらせ、残った先端をくるくると愛おしそうにいじる。

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