この恋、上方修正銘柄です!
しばらく歩いて、ようやく目的地に到着した。
広大な敷地一面には茶褐色の土が露わになり、遠くまで平坦に続いている。
「整地まで済んでるのか。デベロッパーは?」
「保田不動産です。このタワマン建設が頓挫したことで資金繰りが急速に悪化し、自社グループの事業売却でなんとか凌いだという状況です。それに伴い3月期の業績予想を下方修正しています」
「まさに倒産の一歩手前だな。それで格付が正常先から要注意先に下がってたのか」
融資先の格付は、銀行が内々に管理している極秘情報だ。それを把握しているということは。
「まさか本当に、全主要取引先の資料に目を通したんですか?」
「いや、さすがに全部は無理だった」
アベル社CEOが推薦するだけのことはある、と内心で感心しながら、なら尚更案内の役目を遂行しなければと、
「反対方向に見える合同庁舎跡地はもう何年も平地のままです。取り壊し後にアスベストによる土壌汚染が発覚、浄化工事は2年ほどで終わったんですが、その後の公募も不調に終わり、事実上計画は白紙になりました。図書館については新たなまちづくり計画で取り壊しの案が出ています」
「けど、図書館の建築様式って明治時代のものだよね」
「よくご存知ですね。耐震基準を満たしていないらしく、修繕となると新築以上に費用がかかるとかで。レトロな雰囲気がすごく好きだったので、個人的には残して欲しいんですが……色んな思い出がある場所なので」
最後の言葉は独り言のようになった。
九条は腕を組んで暫く考えていたが、スマホを上着のポケットから取り出すと周辺を撮影し始めた。
「図書館のベンチで待ってて」
そういえばここに来た理由は何だったのか。九条が今担当しているプロジェクトとは直接関係がなかった筈だ。
気付けば九条は合同庁舎跡地の方まで歩いて行ってしまっていて、言われた通り、図書館まで戻ることにする。
赤レンガと白亜の石造りの図書館。緑豊かな蔦のからまる入り口を通り過ぎ、少し奥に進む。
楡の木陰に、ひっそりと佇む古い木製のベンチ。
少し分かりづらい場所にあるのに、九条は知っていたのだろうか。いや、どこの図書館にもベンチくらいあるだろうという意味か。
高校生の時、この図書館で読み聞かせのボランティアをしていたことがある。
九条吏の意外な一面を知ったのも、初恋の相手と初めてまともに話したのも、この図書館だった。