この恋、上方修正銘柄です!
日曜の午後、図書館の検索カウンターの近くで、錦は子どもたちに声をかけられた。
「あ、えほんのおねえさんだ!」
「ねーねー、今日よまないのー?」
しーっ、と口元に指をあて、膝を折って目線を合わせる。いつも、おはなし会に来てくれる姉妹だ。
「昨日はごめんね、行けなくて。来週は絶対いくから」
もともとは中学の生徒会で始めた読み聞かせボランティア。高校生になった今も続けている。
「じゃあ約束ね! タッチ!」
妹が差し出してきた小さな手のひらに、パチンとハイタッチを返した。
エントランスまで一緒に歩いて、姉妹と母親に手を振った時、背後から声がした。
「ふーん。俺には冷たくても、子どもには優しいんやな」
関西なまりのイントネーション。間の悪さに錦は振り向きざま露骨に顔をしかめた。
「……九条くんと図書館で会うなんて思わなかった」
「ネカフェじゃなくても漫画読めるとか熱いやん」
確かに図書館に来る理由は人それぞれだ。
それじゃあ、とさっさとその場から立ち去ろうとした時、
「九条、スキあり!」
小学生くらいの男の子の集団が、九条の背中をどんと突き飛ばして逃げていった。
「うわっ……と!」
バランスを崩した拍子に、九条が抱えていた本が数冊床に落ちる。
「お前ら、今度きっちりオトシマエつけたるから覚えとけよ!」
「お友達?」
楽しげな様子に半ば呆れながらそう言うと、九条はからりと笑って、
「うん、まあそんなとこ。ここの公園で時々サッカー教えてやってる」
素行不良と無邪気さが絶妙なバランスで同居した、底が知れない男。それが九条に対するイメージだ。
落ちた本を拾おうと屈んだ錦を見た九条が、何故か急に慌て出した。
「ちょ、ええって、自分で拾うから!」
無視して本を手に取り、題名を読み上げた。
「……経営学入門?」
他の本のタイトルも見る。
「よく分かる簿記。株式投資の心得?」
「いや、これは……その辺に落ちてたから……」
九条にしては珍しく歯切れが悪い。
詮索するのも悪い気がして、本をきちんと重ねてはいと差し出すと、九条は意外そうな顔をした。