この恋、上方修正銘柄です!

 8月の閑散期でなければ会社の混乱はもっと酷かったに違いない。
 メンタルブレイク寸前の状態でなんとか必要最低限の仕事だけ終えて自宅に帰り、相棒の亀山と状況の検証をする。

1.高崎専務の娘との婚約の件
 これはガセの可能性が高い(希望的観測)

2.労基署の臨検の件
 九条が告発した可能性が高い
 過剰労働を是正するため?正義感からか?

3.週刊誌の件
 九条が何故?
 →純粋な正義感の可能性 10%
 →報酬目的の可能性 90%

4.脅迫の件
 実はお金に困っていた?
 闇マーケットで情報を売り抜け、日本を脱出して海外に逃亡中(←イマココ)


 ペンを投げ出し机に突っ伏す。
「駄目、亀山……。何一つ、明るい可能性が見えない……。カメンタリストなら一緒に考えてよ」
 水槽の亀山は知ったこっちゃないとでも言いたげに、手足を甲羅に引っ込めた。

 今となってはこの家で九条と過ごしたあの数週間が夢みたいに思える。
 冷蔵庫、洗面所、クローゼット……あちらこちらに九条の痕跡が残っていて、見つける度に胸がぎゅっとなる。

ーーー「高辻は何も知らん方がええ」 
 私を守るためだと思っていたけど、利用するのが目的で近づいたのだとしたら?
 まんまと九条のハニートラップにはまり、情報を流してしまったことになる。

 拗ねた顔。照れた頬。熱を帯びた瞳。
ーーー「俺、高辻が好き。めっちゃ好き。高校の時から、ずっと好きやった」 
 それでも九条の全部が嘘だとは、幾ら疑い深い錦でもさすがに思えなくなっていた。

 カウチソファに寝そべりながら、消しゴムサイコロを眺める。
 信じるべきか否か。いっそまたこのサイコロで、天の声を聞いてみようか。偶数が出たら、シロ。奇数が出たら、クロ。

―――「賽は投げられたとは、既に運命は決まったのだからあとはもう身を任せて進むしかないという意味」

 諦めて、蓋をして。ずっとそうやって生きてきた。
 九条が与えてくれるものを受け取るのに精一杯で……
……違う、そうじゃない。まだ何も、自分から動いていない。

 サイコロを握り、ソファから飛び起きた。
「亀山、私、行って来る!九条くんを信じてるから!」

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