この恋、上方修正銘柄です!
「ちょ、待てって言うてるやろ!」
息を切らしてそう言った九条は、振り向いた錦の涙でぐしゃぐしゃの顔を見てギクリとした顔をした。
その隙に腕を振り払い、両手で顔を覆う。指の間から零れた涙が、歩道に敷かれた煉瓦に黒いシミを幾つも作った。
「つまりその……、あー、何から説明したら良いのか分からんけど……」
嗚咽する錦を目の前に、九条は困ったように首の後ろに手をやって、
「これは全部が解決してから、小ぎれいな格好して薔薇の花束抱えてちゃんとした場所で言うつもりやったけど……非常事態やし、今、言うわ」
両方の大きな手で顔を覆っていた錦の両手をそっと握り、呼吸を整えたあと。
「高辻錦さん!俺と、結婚して下さい!」
大きな声と覚悟を宿した瞳に息をのむ。一瞬で涙も引っ込んだ。
周りの風景も雑踏も消え失せ、この世界にいるのは二人きり。そんな錯覚すら覚えながら、ただ九条の顔を見つめていた。
「……頼むから、なんとか言って?」
じりじりした九条が、答えを求めて口を開いた。
「……九条くん」
「おう……」
「私、日本の現地妻にはならないから」
「は、はあ?」
「それともこれは結婚詐欺?会社の鞄を落としたのか手術が必要なのか良い投資先を見つけたのかは知らないけど、お金は絶対に貸しません」
九条は握っていた手をポロッと離して、
「ち、違うわアホ!乾坤一擲の覚悟で全身全霊のプロポーズしたのに、重婚とか詐欺とかってなんやねん!さっきの子はクロエの子や!」
「だから、九条くんとクロエさんの子どもなんでしょ……別れ話をこじらせて日本まで追いかけて来た彼女と、新シーズンで復縁したことは分かってるんだから」
言いながらまた悲しくなって、ぐすっと鼻をすすった錦に、
「なんや新シーズンて、アメドラみたいに言うな!ほら、前に写真見せたことあるやろ、リアムや!」
リアム……
白い肌、ダークブラウンの髪に、ヘーゼルアイ。
言われてみれば、九条には似てなかった気もする。
ーーー「さっき言うてた先輩の子や」
あの時見せてもらった赤ちゃん……