この恋、上方修正銘柄です!

「佐藤錦」

 いつの間にか傍に来ていた九条の言葉に驚いて振り返る。
 だが九条の視線は錦ではなく、道を挟んだ先にある小さな広場に向いていた。
 仮設テントが並び、のぼりが幾つも立っている。その中の一つに【佐藤錦】の文字とさくらんぼの絵が書かれた旗があった。
「地方の物産展やってるね。何か買って行く?」
「いえ、大丈夫です。もう用は済んだんですか」
「うん。ごめんね、忙しいのに付き合わせて。はいコレ」

 渡されたペットボトルはいつかと同じ、巨峰とベリーのストレートティー。

「向こうの自販機、他のは全部売り切れでさ。あ、苦手だった?」
 そういうことなら納得だ。仮にこの九条が九条吏だったとして、あの日錦を買収した飲み物が何だったかなど、いちいち覚えてる筈もない。
「……いえ、好きです。ありがとうございます」
「それは良かった」

 笑った顔が九条の面影と重なる。
 こうして太陽の下で見てもやはり似ている。 

 まじまじ見過ぎたらしく、視線に気付いた九条が困った顔で、
「ええっと、どうかした?」
「あ、いえ、すみません。九条さん、背が高いなあと思って」
 咄嗟の言い訳にしては上手く言えたとホッとしていると、
「前測った時は187だったかな。高辻さんも女の子の中では高い方だよね」
「昔は身長がコンプレックスだったんです。今から考えたら、自信のなさを身長のせいにしてただけだって分かるんですけど。……あ、別に今の自分に自信があるという話ではなくて、寧ろ全然ないというか……」
 うっかり余計なことまで話してしまい口を噤むと、
「なんで?こんなに美人なのに?」

 あまりにも普通に返され絶句する。
 アメリカ帰りは怖い。

「……僭越ながら九条さんは一度、コンプライアンス講習を受けた方が良いと思います。アメリカと日本では文化が違うので」
 さっきのランチの件も然り、他の女子行員に対してもこの調子だと、いずれ大変なトラブルが起きそうな気がする。

 九条は不思議そうな顔をしたが、ああ、と察した様子で、
「大丈夫。俺、高辻さんにしか言わないから」
と、軽やかに笑って片目をつぶってみせた。
 駄目だ、これは絶対皆に言ってるやつだ。

 先が思いやられるが、これで九条吏でないことは確定した。
 あの九条なら、自分にだけはそういうことを言わないから。

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