この恋、上方修正銘柄です!
Lesson1 フルスペックなコンサルタントと苦手な男子

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―――4ヶ月前



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 スマホを見ながらフルーツ入りグラノーラで簡単に朝食を済ませる。経済ニュースと株価、為替をチェックするのは銀行に就職してからのルーティンだ。
「じゃあ行ってくるね、亀山」
 亀山と呼ばれた同棲中の恋人、ではなく7センチほどの小さな亀が、水槽の中で短い首を伸ばした。


 1番線から地下鉄に乗り、30分程かけて職場に到着する。
 本店営業部長の松原から順に、既に出社している男性行員達に挨拶して回った後、奥の広い金庫室から書類ボックスを出してきて融資課にある自分のデスクに置く。店が開いたら相談窓口の対応に追われることになるので、9時までに仕事を進めておきたい。

 朝礼が始まる少し前、預金課の女性行員達が次々にフロアに入って来る。
 いつもなら挨拶して通り過ぎる窓口係の富小路が、そわそわした様子で話しかけてきた。
「確か、今日からですよね。何とかっていう営業拠点が、この本店営業部内に設置されるの」

 店の入り口から一番遠い壁際、ブースに区切られた一角はまだ無人だ。 

 端末を叩いて、Customer Information File、通称CIFと呼ばれる顧客情報を出力しながら、
「確か、都市創生タスクフォース、だったかな」
「なんか、名前からして社運かけてる感ありますね」
「官民合同の都市再開発ラッシュが今後数年続くらしくて、専門のプロジェクトチームが組まれることになったんだって。4階の法人営業推進部から3人来るって聞いてる」
「きたきた、王道キャリア!若手の可能性ありですか」
「上層部肝煎りのプロジェクトだから、乾課長が言うには中堅行員だろうって」
「えー、そうなんですかあ?超がっかり」 
 そう嘆いたのは同じく窓口担当の北川。いつの間にか皆集まってきている。
「あと、うちの銀行が業務提携してる外資系コンサル会社から1人、室長として来るみたい。CEO直々の推薦らしくて、人事部にいる同期がハーフでバイリンガルとか言ってた」
「ががが、外資系のハーフ!?」
「いや喜ぶのはまだ早い。マチアプで何度も失敗してるから私」
 それなりに上手くやってはいるが、定時退社と結婚退職を志す彼女達とは温度差を感じる事も少なくない。 

 各々の席に戻って行く富小路たちと入れ替わりに渉外担当の堀川がやって来た。
「どう、昨日預けた住宅ローンの案件」
 CIF情報を手に取って、
「普通預金残高15万。定期預金はゼロ。勤続年数や年収から考えて、正直厳しいです」
「あーその人、地銀がメインバンクらしくて」
「それより問題はこっちです。信用照会の結果、カードに事故歴あり。こうなるとまず審査部が通しません」
「ちょっと見せて!げ……ホントだ」
「奥さんに固定収入があるなら単独ローンにするか、信用情報の保有期限を見る限りあと半年で消えるので、それまで待ってもらうか。堀川さんから見てどうですか、その顧客」
「うーん、確かに俺もちょっと引っ掛かるとこがあって。再検討してみる、ありがと」
 手書きのToDoリストから完了タスクを線で消す。


 新しいチームが来たとして、自分はいつもと同じ仕事をするだけ。
 何ら変わりのない朝。
 のはずだった。朝礼で部長から、一人の男が紹介されるまでは。


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