この恋、上方修正銘柄です!
「ふぅ、一旦セーフ!」
手が緩んだ隙に、慌てて体を離す。
「あ、ごめんごめん。サキちゃんと別れたって知った別の元カノ……名前、何やったかな……がヨリ戻したいってしつこくてな。俺、過去は振り返らへん主義やのに」
「な、なら、私が隠れる必要ないじゃない!」
「あ、ホンマや。ついうっかり。ハハッ!」
「……もう、笑い事じゃないし」
カーテンの静電気で広がった髪を直していた錦の眼鏡を、九条がひょいと取り上げた。
「ちょっと、……!」
九条はジッと見つめた後、ほうと呟く。
「な、何?」
「眼鏡取ったら可愛いやん」
絶句する間もなく、
「とかベタなこと、俺が言うと思った?ハハッ」
「……バカ過ぎて意味分かんない」
「あのなあ、関西人はバカって言われると傷つくねん。どうせ言うならアホにして」
「じゃあ言い直す。アホ過ぎて意味分かんない!」
「うーん、イントネーションがイマイチでなんかめっちゃ腹立つ」
付き合いきれない。眼鏡をかけ、帰り支度を始める錦の背後から、
「高辻さ、もっと自分に自信、持って良いと思うで」
からかわないで。
そう言おうとして言葉に詰まったのは、九条が真面目な顔でこっちを見ていたからで。
「そもそも自己評価低すぎやねん。無いモン欲しがるより、自分の良いトコ伸ばす方が絶対ええ。と、俺は思う」
きっと九条なら、いとも簡単に眼鏡を取り払ってしまうのだろう。内と外、自分と他人の境界を崩してしまうのだろう。
見透かされている。
自信が無くて、怖がっている私を。
「……九条君には、関係ない」
そんなことを言いたい訳じゃない。
でも、そんな言い方しか知らない。
教科書を詰め込んだ鞄を手に取り、急いで教室を後にした。
……だから私は、可愛くない。