この恋、上方修正銘柄です!
本屋からの帰り道を佐藤と並んで歩く。
歩道に伸びる二人の影。昔の自分なら、少し後ろを歩いていただろうと思う。身長はやはり錦の方が高かったけれど、何故か今は前ほど気にならなかった。
「教えてもらった教材、どれもすごく良さそう」
「受験まであと半年ちょっと。お互い希望が叶うと良いね」
「うん……」
「それにしても、九条君と小川さんって相変わらず面白いね」
佐藤は気付いていないようだったが、本屋にいる間中、生温かい目で観察されていたことを思い出し、うんざりした。時折エールを送って来る本人達に悪気は全くないらしく、それがかえってタチが悪い。
「来週からの期末テスト、絶対助けないから……」
「え、何か言った?」
「ううん、何でもない!」
「そうだ、夏休みの特進クラスの夏期講習、高辻さんは参加する?」
「予備校の夏期集中講座と迷ってて。佐藤君は?」
「僕は学校の方に参加するつもり。先輩の話によると、予備校と遜色ないらしいから。うちのクラスは大半がそうだと思うよ。そういえば高校では結局一度も同じクラスになれなかったね。中学でも1年の時だけだったし」
夕陽に照らされた佐藤の横顔は、まだ少年の面影を残している。
「中1の頃はあまり良い思い出がなくて。……私、いじめにあってたから」
それは突然始まった。いじめの加害者は、元々は仲が良かったグループの子達だった。
「みんな見て見ぬフリをして。先生にも親にも、自分がいじめられてるなんて恥ずかしくて言えなかった。そんな時、佐藤君だけが私を助けてくれたの」
正義感を振りかざす風でもなく、例えば迷子の子どもに声をかけるような、ごく自然な感じで。
「そしたら今まで知らん顔してた子達も段々声をかけてくれるようになって。いつの間にかいじめが終わってた。佐藤君は覚えてないかもしれないけど、本当に嬉しかった。でも、上手くお礼が言えなくて……」
佐藤が所属している生徒会にも入り、いつも佐藤を見ているようになって、思った。
「佐藤君はきっと、見た目よりもずっと強い人なんだろうなって……あ、違うの!別に佐藤君が弱そうに見えるとかそういう意味じゃなくて……って、弱そうって言葉も失礼だし!……ご、ごめんなさい!」
佐藤は気を悪くした風もなく、くすくす笑っている。
「大丈夫、伝わってるから」
それで少しホッとして、
「……あの時は、本当にありがとう」
今まで言葉に出来なかったのは、いじめられていた過去を自分自身が認めたくなかったからかもしれない。
「こちらこそありがとう。驚いたけど嬉しかった。そんな風に思ってもらえてるなんて意外だったから」
佐藤は律儀に礼を言った後、自分の腕を触って首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、体、もう少し鍛えようかなって」
「え!そんな、佐藤君は今のままで……!」
「ははっ、冗談。……んー、やっぱりちょっと鍛えようかな」
思わず笑ってしまった錦を見て、佐藤も楽しげな顔をした。