この恋、上方修正銘柄です!
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都心の一等地にある都市銀行の本店ビル。
1階フロアは錦が所属する営業部で、法人取引や窓口業務を行っている。ちなみに営業部部長は、支店でいう支店長に当たる役職だ。
上の階は人事部や審査部、資金証券部など部署別に分かれていて、各フロアにはセキュリティゲートが設置されている。
地下の食堂は一昨年、お洒落なカフェ風にリニューアルされた。本日のおすすめランチを選んで席につき、黙々と食べる。
昼の休憩時間は1時間と就業規則に謳われてはいるものの、実際はせいぜい30分。忙しければ食べ損ねることもある。食事が済んだらロッカールームで簡単にメイクを直し、職場に戻るのが日々のパターンだ。
部屋に入ると6畳程の休憩スペースで、富小路たちが話に花を咲かせていた。
ポーチからコンパクトを取り出し、鏡を見ながらパウダーでテカリを抑え、リップをサッと塗り直す。
「椅子にかけてある上着のタグ見たら、ブリオーニだった」
「なにそれ、高いんですか?」
「イタリアの高級ブランド。70万以上はするね」
「わ、セレブ!実家も太そう〜」
「彼女いるか、誰かリサーチしました?」
「あんな超優良物件、もしフリーなら奇跡中の奇跡でしょ」
「結婚したら海外暮らしかあ、憧れるー」
尽きない会話に、お先ですと小さく声を掛けて午後の仕事に戻った。
「お先に失礼しまーす」
18時過ぎ。預金課の女性行員が次々に帰って行く時刻。
一息つこうと給湯室の喫茶スペースでカフェラテを淹れている時、隣のサーバーの前に立つ人の気配がした。
「おつかれさま、高辻さん」
「あ……おつかれさまです」
髪色や髪型こそ違うものの、キリッとした眉に凛とした二重、すっと通った鼻筋といい、間近で仰ぎ見る横顔も、不思議なくらい九条吏によく似ている。
「預金課の退社時刻は、いつもこれ位?」
「定時の17時に帰れる事は稀です。それでも昔に比べると働き方改革で早く帰れるようになった方です」
「高辻さんはまだ帰らないの?」
「はい。課長決裁まで回しておきたい案件があるので」
九条は壁と一体型のカウンターテーブルに軽く背を預け、コーヒーを飲みながら、
「さっき預金課の堺課長と一緒に金庫室に入ったんだ。札束が山積みで驚いたんだけど、札束の扱いが淡々としてるっていうか雑っていうか。寧ろそっちの方がびっくりしたよ」
人見知りしない気さくな性格らしい。そんなところも九条吏を彷彿とさせる。
「私も最初は驚きましたが、今では商品としか思えなくなりました」
「ところで、企業向け融資は高辻さんが担当?」
「中堅企業は私と2年先輩の川端さんが。私は住宅ローンも担当しているので、割り当ては川端さんの方が多いです。大口先は乾課長と課長代理の紫野さん。個人事業主や金融公庫は後輩の大原君と大宮君が担当しています」
「在学中に税理士資格を取得したとか。すごいね」
外資系のハイキャリアは情報収集が得意らしい。
「暗記が得意なだけです」
「仕事はいつも遅くまで?」
「20時頃には帰るようにしています」
「それだと平日はデートする時間もないね。週末ってインドア派?それとも外に出かけることが多い?連休とかまとまった休みがあったら、行きたい場所ってある?」
まさかの質問攻めは、欧米的コミュニケーション?
なんだかイメージが違うというか、なんというか……
「……それ、セクハラです」
え、とフリーズする九条にハッとする。
「あ!いえ、すみません!実は、九条さんが知人に似ていて、何だか急にその人と話している気になってしまって……失礼しました!」
九条は特に気分を害した風もなく爽やかに微笑んで、
「いや、こちらこそ気を悪くさせてゴメン」
こうなったらついでにと、
「つかぬことをお尋ねしますが……九条アーヴィングさんって、本名ですよね?」
「うん。偽名でアベルに就職なんて出来ないし。この銀行に来る前にもされたよ、身元調査。しかも入念に」
「では、関西弁を話す同世代の従兄弟とか、生き別れになった双子とかは……」
「いないけど」
「ですよね……」
些細な質問をセクハラだと喚き立て、不可解な質問をする。変な女決定だ。
溜息を漏らした錦の隣、九条がうんと伸びをして、
「さ、そろそろ仕事に戻ろうかな。この週末までに、主要取引先の財務状況には一通り目を通しておきたくて」
「主要取引先だけでもかなりの数ですよ」
「そうだけど、せっかくの機会だから。そうだ、セクハラついでに。その知人って、元彼とか?」
「違います。寧ろ、苦手でした」
即答した錦に、そう、と笑った九条がゴミ箱に投げた空のカップは、至近距離にも関わらず外れた。
都心の一等地にある都市銀行の本店ビル。
1階フロアは錦が所属する営業部で、法人取引や窓口業務を行っている。ちなみに営業部部長は、支店でいう支店長に当たる役職だ。
上の階は人事部や審査部、資金証券部など部署別に分かれていて、各フロアにはセキュリティゲートが設置されている。
地下の食堂は一昨年、お洒落なカフェ風にリニューアルされた。本日のおすすめランチを選んで席につき、黙々と食べる。
昼の休憩時間は1時間と就業規則に謳われてはいるものの、実際はせいぜい30分。忙しければ食べ損ねることもある。食事が済んだらロッカールームで簡単にメイクを直し、職場に戻るのが日々のパターンだ。
部屋に入ると6畳程の休憩スペースで、富小路たちが話に花を咲かせていた。
ポーチからコンパクトを取り出し、鏡を見ながらパウダーでテカリを抑え、リップをサッと塗り直す。
「椅子にかけてある上着のタグ見たら、ブリオーニだった」
「なにそれ、高いんですか?」
「イタリアの高級ブランド。70万以上はするね」
「わ、セレブ!実家も太そう〜」
「彼女いるか、誰かリサーチしました?」
「あんな超優良物件、もしフリーなら奇跡中の奇跡でしょ」
「結婚したら海外暮らしかあ、憧れるー」
尽きない会話に、お先ですと小さく声を掛けて午後の仕事に戻った。
「お先に失礼しまーす」
18時過ぎ。預金課の女性行員が次々に帰って行く時刻。
一息つこうと給湯室の喫茶スペースでカフェラテを淹れている時、隣のサーバーの前に立つ人の気配がした。
「おつかれさま、高辻さん」
「あ……おつかれさまです」
髪色や髪型こそ違うものの、キリッとした眉に凛とした二重、すっと通った鼻筋といい、間近で仰ぎ見る横顔も、不思議なくらい九条吏によく似ている。
「預金課の退社時刻は、いつもこれ位?」
「定時の17時に帰れる事は稀です。それでも昔に比べると働き方改革で早く帰れるようになった方です」
「高辻さんはまだ帰らないの?」
「はい。課長決裁まで回しておきたい案件があるので」
九条は壁と一体型のカウンターテーブルに軽く背を預け、コーヒーを飲みながら、
「さっき預金課の堺課長と一緒に金庫室に入ったんだ。札束が山積みで驚いたんだけど、札束の扱いが淡々としてるっていうか雑っていうか。寧ろそっちの方がびっくりしたよ」
人見知りしない気さくな性格らしい。そんなところも九条吏を彷彿とさせる。
「私も最初は驚きましたが、今では商品としか思えなくなりました」
「ところで、企業向け融資は高辻さんが担当?」
「中堅企業は私と2年先輩の川端さんが。私は住宅ローンも担当しているので、割り当ては川端さんの方が多いです。大口先は乾課長と課長代理の紫野さん。個人事業主や金融公庫は後輩の大原君と大宮君が担当しています」
「在学中に税理士資格を取得したとか。すごいね」
外資系のハイキャリアは情報収集が得意らしい。
「暗記が得意なだけです」
「仕事はいつも遅くまで?」
「20時頃には帰るようにしています」
「それだと平日はデートする時間もないね。週末ってインドア派?それとも外に出かけることが多い?連休とかまとまった休みがあったら、行きたい場所ってある?」
まさかの質問攻めは、欧米的コミュニケーション?
なんだかイメージが違うというか、なんというか……
「……それ、セクハラです」
え、とフリーズする九条にハッとする。
「あ!いえ、すみません!実は、九条さんが知人に似ていて、何だか急にその人と話している気になってしまって……失礼しました!」
九条は特に気分を害した風もなく爽やかに微笑んで、
「いや、こちらこそ気を悪くさせてゴメン」
こうなったらついでにと、
「つかぬことをお尋ねしますが……九条アーヴィングさんって、本名ですよね?」
「うん。偽名でアベルに就職なんて出来ないし。この銀行に来る前にもされたよ、身元調査。しかも入念に」
「では、関西弁を話す同世代の従兄弟とか、生き別れになった双子とかは……」
「いないけど」
「ですよね……」
些細な質問をセクハラだと喚き立て、不可解な質問をする。変な女決定だ。
溜息を漏らした錦の隣、九条がうんと伸びをして、
「さ、そろそろ仕事に戻ろうかな。この週末までに、主要取引先の財務状況には一通り目を通しておきたくて」
「主要取引先だけでもかなりの数ですよ」
「そうだけど、せっかくの機会だから。そうだ、セクハラついでに。その知人って、元彼とか?」
「違います。寧ろ、苦手でした」
即答した錦に、そう、と笑った九条がゴミ箱に投げた空のカップは、至近距離にも関わらず外れた。