この恋、上方修正銘柄です!
「それで、面談はどうだったの?」
「……なんか親父と斉藤が意気投合してエラい目にあった」
九条父、ちょっと見てみたかった気がする。
くすっと笑った錦を見て、九条はわずかに眉をあげ、ふっと抜けたような息をついた。
「俺、出来の良い兄貴がいてな。親父の会社は兄貴が継ぐんやと、俺も親父も思ってた。けど、今年大学を卒業した兄貴は、大手の広告代理店に就職した」
「じゃあ、九条くんが?」
「どうかなあ。息子ってだけで安易に神輿に担がれるんは何か違うやろ」
「でもお父さんは継いで欲しいと思ってるかも」
「親父の会社も今でこそ数十人の従業員雇って上手いこといってるけど、昔は色々大変でな。金も暇もなくて、あるのは借金だけ。春休みや夏休みなんか、兄貴と俺はいっつも親父の実家に預けられてた」
九条の社会性や世渡りの上手さは、幼い頃の過酷な経験から来ているのかもしれない。そう思うと少し切なくなった。
「私の父は銀行系の債権回収会社に勤めててね。中小企業や個人事業主の大変な部分を色々見てきたみたいで、自営業者とは結婚するなって、いつも私に言ってる」
「まあ、普通の親ならそう言うやろな」
「私、大学に入ったら税理士の勉強をしようと思う。簿記で左右の数字が合う感じ、すごく好きだし、家族にも向いてるって言われて。だからとりあえずこれが私の将来やりたいこと、にしておいてくれる?」
「えーっと、何の話やっけ」
とぼける九条に少し笑って、
「忘れてるならそれで良いの。私、あの頃よりも少しだけ、自分のことが好きになれた気がするから」
「……今日はやけに素直やん」
「九条くんが真面目な話するから」
「進路なあ……実は俺、1コ考えてることがあるねん。けどどうするか、正直ちょっと迷ってる」
「九条くんでも迷ったりするんだ」
「こう見えて意外と俺、豆腐メンタルやから。ピアスも痛いのイヤやから開けられへんし」
思わずふふと笑ってしまう。
本当なら、ちょっと可愛い。
「……やらずに後悔するより、やって後悔したほうが良い。そんな言葉があるけど、私には当てはまらないと思う。やってもやらなくても後から必ず後悔する、面倒な性格だから」
「そうなん?」
「例えば夏期講習。学校か予備校かで迷って結局学校にしたけど、少し後悔してる。でも予備校を選んでいたら、余計な費用をかけなくても学校で十分だったと思った筈。こんなのは些細なことだけど、いつか人生を左右するような選択をした時に、選ばなかった方を後悔せずにいる自信がない。けど、九条くんは私とは違う」
前の道、走ってくる車に足を止め、九条を見た。
「やってもやらなくても後悔なんてしない人。だから迷う必要なんかなくて、九条くんがやりたいか、やりたくないかで決めれば良い。と、思う」
九条は何も言わなかった。
その代わり、錦からずっしり重い鞄を奪うように取ると、黙って肩に引っ掛けた。