この恋、上方修正銘柄です!

「その後、綾乃とはどう?」
「……気になる?」
「新学期に会ったら別れてたなんてやめてよね」
「分かってる分かってる」
「2回言わないの……ふふっ」
「な、なんやねん」
「本当は、あまり心配してない。きちんと考えてから返事したみたいだし、九条くんにしては珍しく」
「……何でもお見透し、みたいな顔すんのヤメテ。俺、掴みどころがないのが売りやのに」
 そう言って頭をかいて、
「小川のことは、好きか嫌いかで言うたらモチロン好きやで。可愛いし気も合うし。けど、ずっと友達やったし、これからもそうやと思ってたから、迷った。それでもあんな顔した小川見たんは初めてやったし、相当の勇気出してくれたんやと思う。どのみち今まで通りの関係ではいられへん覚悟で告白してくれたんや。だから、あいつの気持ちにちゃんと向き合ってみようと思った」
「綾乃、すごく喜んでた。どうして女子はみんな九条くんが好きなのか、今なら少し分かる気がする」
「俺に惚れるなよ高辻」

 横断歩道の信号が青点滅になり、交差点で立ち止まる。

「もう手遅れかも」
「……え」
「なんて、冗談」
 
 信号が赤になる。
 それきり九条は黙ってしまった。
 たまにはやり返そうと軽い気持ちで言ったのに、微妙な雰囲気。何か失敗したかなと思っていると。
 
「なあ」
と呼ばれて顔を上げると、九条が真面目な顔でこちらを見ていた。
「いつか、人生を左右するような選択をせなあかん時が来るとして、高辻に自分で決める自信がなかったら。その時は、俺に相談し。俺がサクッと決めたるから」
 ニッと笑ってポケットに手を突っ込むと、真っ直ぐ前を向いた。

 誠実な横顔、とは言い難いが、少し危うくて世慣れた雰囲気には惹かれるものがある。 
 それに見た目や言動は軽いが、根は意外と真面目なのも今となってはよく分かる。

「考えておく」
「そうしとけ。な、茶でもしに行かへん?」
「私、お腹減った」
「じゃ、飯にしよ。何がいい?言うとくけど、彼女じゃない女にはおごらんからな」

 青信号に変わり、ふたり並んで歩き出す。

「ついでに次の土曜日、皆で海に泳ぎに行こうや。小川と壬生と、4人で。何なら佐藤も誘う?」
「誘わなくて良いです!っていうより、行かない。水着持ってないし」
「スク水でエエやん」
「良くない」
「じゃあ、高辻はビーチで荷物番ってことで」
「暑いから嫌」
 否定の言葉を連発する錦に、九条はがっくりと肩を落とした。
「夏やのに氷点下……。高校最後の夏休みなんやで。1コくらい、皆で思い出作りたいだけやのに……」

 そういえばこの夏休み、学校と家、塾と家、の往復だけしかしていない。九条の言うことの方が正論かもしれない、と一瞬反省したのを九条は目聡く捕らえたらしい。
「あ。今、ちょっとだけ行ってもいいと思ったやろ?ってことで、気が変わらんうちに水着買いに行くで!No pain, no gain. 虎穴に入らずんば虎子を得ず、や」
「全然意味違うし!大体、そんなお金、持ってないから」
「任せろ、今日給料日やねん。飯食ってから買いモン行こ。さっきの話、ついでに水着も俺がサクッと決めたるから」
「頼んでないし!」
「あ、言うとくけど……」
「彼女じゃない女にはおごらないんでしょ。さっき聞いた」

 結局、店員にはカップルに間違えられながら、錦は水着を買わされるはめになった。
 悪いと思ったのか何なのか、食事の代金は九条が払ってくれた。

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