この恋、上方修正銘柄です!

 さすがにこれを許してしまったら、行き着く所まで行ってしまう。
 いくら九条が肉食系でつい目の前の餌に食いついてしまったからといっても、会社では上司と部下。やって良いことと悪いことがある。
 咎めるように手首を掴むとあっけなく攻守逆転、両手を纏めて頭上の壁に縫い付けられた。

「高辻とシたい。……していい?」

 切羽詰った声と表情に体の奥がジンと疼く。この九条を拒否できる女子がいるだろうか。
 再び近づく唇に、ああ、なんかもうダメだ、と観念した時。 
 ブーンという振動音が部屋に響いた。

 見るとすぐ横で九条のスマホが音を立てて震えていた。だがメールか何かの着信音だったらしく、直ぐに静かになる。

 仕切り直しと言わんばかりに九条はコホンとひとつ咳をして、再度顔を寄せて来た。が、再びスマホがブルブル震え出し、今度は一向に収まる気配がない。
「ああもう!」
 九条は忌々しげにそう言うと、乱暴にスマホを手に取った。
「もしもし!渉か、何の用や!……はあ?泣いてる?……確かに相談しろ言うたけどやな……偽の投資話で大損こいた先輩は気の毒やし後で話は聞くけど、今じゃなくてええやろ!こっちは取り込み中やねん!」
 通話終了ボタンをタップして、はあ、と大きな溜息をついた後、再びスマホが鳴る。
「だから、ちょっと待てって……」

 直後、急にトーンダウンする。
 スマホを耳に当てたまま、錦から距離を取って英語で二言三言何か話した後、すぐに切ってしまった。
「ごめん、ちょっと急用が出来た。タクシー乗り場まで送って行くから用意して」

 固い口調。何かあったのだろうか。
 背中のファスナーに手間取っていると、九条が黙ってすっと上げてくれた。そして、今朝九条が着ていたグレーのサマージャケットを羽織らせてくれる。
 なんとなく急かされる思いで荷物を持ち、九条を追って部屋を出た。
  
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