この恋、上方修正銘柄です!
降り始めた大粒の雨がアスファルトに斑点をつくり、あっという間に夜の街を黒く染めていく。
エントランス横のロータリーでは、既にタクシー数台が待機していた。先頭の車に乗り込んだタイミングで、タクシーチケットを渡される。
「降りる時、ここに金額書いて運転手に渡し」
「けど……」
「俺が誘ったんやから。家に着いたらLINEせえよ」
ドアが閉まり、じゃあなという風に手を挙げた後、九条は足早に中に戻って行った。
「どちらまで行きますか」
「あ、はい。ええっと……」
自宅の住所を告げようとして、元々着ていた服を入れた紙袋がないことに気付く。どうしようか迷ったが、取りに戻ることにする。
本当は服は口実で、九条の急変した態度が引っ掛かったからかもしれない。
九条の部屋がある階でエレベーターを降りる。大きな花瓶が飾られたコーナーを曲がろうとして、慌てて身を隠した。廊下の先にある部屋の前で、一組の男女が何やら揉めているのが見えたからだ。
男の方は九条で、女性の方は金髪の外国人。高いヒールにシックな黒のワンピース、少し年上な雰囲気の、かなりの美人だ。
どきん、どきん、と胸の鼓動が早くなる。
女が英語で何かをまくしたて、九条は困った顔で何かを言っている。やがて泣き出した女の細い肩を慰めるように抱いて、二人は部屋の中に消えて行った。
強くなった雨がタクシーの窓を叩き、街のネオンが歪んだ水彩画のように流れていく。
さっきの光景が頭から離れない。
アメリカで九条がきまぐれに付き合った女が日本にまで追いかけて来て、復縁を迫っている。まさしくそんな雰囲気だった。
前に九条が言っていた好きなタイプの条件にも当てはまりそうだ。
「そういうのは卒業したとか言ってたけど……全然変わってないじゃない」
まだ着けていたピアスを外し、ケースに戻す。
裏切られた気持ちになっているけど、自分が勝手に期待して、現実を思い知らされただけだ。
胸の痛みも切ない気持ちも一緒に入れて、蓋をした。