この恋、上方修正銘柄です!
「ごめんね亀山、ご飯遅くなって」
水槽の亀に人工飼料をやりながら、レモンサワーを飲む。
昨年弟が結婚して家を出たことを機に両親が海外移住宣言をしたため、必然的に一軒家で一人暮らしをすることになった。ホームセキュリティー加入済みなのはせめてもの親心らしい。
クアラルンプールでの生活は快適らしく、帰ってくる気がなさそうなのは、頻繁に投稿されるインスタグラムを見れば分かる。通知をタップし、夫婦でゴルフをしている写真にいいねを押しておく。自分からは発信することのない、見る専用のアカウント。
「投稿するのは勝手だけど、一日一回はいいねを押さないとうるさく言ってくるの、ホントやめて欲しい。亀は良いよね、SNSの煩わしさとは無縁で」
素知らぬ顔で沈んだ餌を食べる亀山は、ミシシッピニオイガメという世界最小級サイズの亀だ。元々弟が飼っていて、なんとなく愛着がわいてしまい、無理を言ってそのまま置いて行ってもらった。
「そういえば今日、九条アーヴィングって人が室長で来たんだけど、それが九条くんにそっくりで。世界には自分に似た人が3人いるって言うけど、まさにそれ」
亀に話しかける女など色んな意味で終わっているのかもしれないが、ストレス解消法として定着してしまっている。
のそのそと水に潜る亀山を横目に、社内ポータルサイトで5月1日付の人事異動をチェックする。 メインの異動は4月と10月なので数は少ないが、該当する行員の名を見つけ、手持ちの記録をアップデートしておく。
九条を知っている高校の同級生に久々に連絡してみようかとアプリを開いたものの、面倒になってやめた。
代わりに、イケメンコンサルタントが見事な推理で事件を解決する海外ドラマの続きを見ようとアプリを立ち上げた時、洗濯終了を告げるアラームが鳴り、スマホを置いてリビングを後にした。