この恋、上方修正銘柄です!

 翌日、九条達がバンクミーティングに出かけた後、錦は部長室を訪れた。 
「中小企業診断士の行内選抜試験を受けたい?」
「はい。松原部長の推薦が頂ければの話なんですが」
 松原は鍵のかかった棚から人事ファイルを取り出すと、
「推薦なんて幾らでもしてやるが……九条君のチームに入ったばかりで大変だろうに。しかも来月頭の試験に今からで間に合うのか?」
「実は以前から準備はしてたんです。今回東山さん達と仕事をするようになったことが刺激になりました。日々の業務には支障がないようにしますので、どうかお願いします」


 その日の夕方、書類を綴じていると、九条がいつになく難しい顔で近づいて来て。
「高辻、ちょっと良いかな」
 先導され、フロアの隅に移動する。
「行内選抜試験、受けるんやって?」
「報告が遅くなってすみません。仕事には影響しないようにしますので」
「いや、俺が心配なのは、そういうんじゃなくてやな……この前の話も出来てへんし」
「九条さん、3番、資金証券部よりお電話です」
「了解です!」
 預金課の竹田に返事をした後、小声で、
「ああもう、まだ約定書取れてへんのに!」
 続いて、デスクの方からは東山が、
「九条さん、中間決算が発表された企業が数社あるんですが、見てもらえますか」
「悪い、電話が終わってからにしてくれるか」
「あっと、すみません、こっちは急がないので大丈夫です」
「ごめん、さっきの話はまた後でな」
 そう言って席に戻り、受話器を取る姿を眺めた。

 近いのに、遠い背中だ。

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