この恋、上方修正銘柄です!
行内試験まで半月と少し。筆記試験と面接で、中小企業診断士のスクールを受講出来る者が決まる。
チームの経験者達は何かと気にかけてくれていて、回覧用の通達を見ながら、
「今年の募集定員は2名で、希望者は7名。倍率云々もですが、一定のレベル以下だと該当者なしの場合もあるので油断は禁物です」
「試験科目は財務会計と法務と小論文、それに英語。小論はまだしも、なんスか英語って」
「英語なら九条さんに教えてもらえ……そうにないですね、英文法と長文読解だし」
日常の業務には支障がないようにすると言い切った以上、普段より頑張らなければならない。
帰宅後の数時間と休みの日が貴重な勉強時間だ。
夕食は休日にある程度作り置きをしておいて平日に消化して行くパターンなのだが、この頃は適当に済ませてしまっている。
ふとスマホに目を遣ると、通知が来ていた。
『TOEICの過去問集、要る?』
メッセージの後に画像が何枚か送られてきている。この前のパーティーの時の写真だ。壬生が撮ってくれた、九条と二人で写った写真もある。
『持ってるから大丈夫』
『もう1時過ぎてんで。明日も早いしそろそろ寝ろ』
『九条くんこそ。無理しないようにね』
『俺はもう半分寝てる。おやすみ』
このところ九条は多忙を極めていて、あの夜の話にまでたどり着かないらしい。
忙しい日々に流されるフリをして、なかったことにするのがお互い都合が良いに決まっている。
そして九条はロサンゼルスに帰って行く。それで終わりだ。
ハンガーにかけてある九条のジャケット。これも近々、返さなくてはいけない。
過去問を解きながら、消しゴムは、と探していて、ふと思い出す。
「確か、ここに入れたはず……」
引き出しの奥、すぐに見つけた。元々はリップバームが入っていた丸くて可愛い缶を開ける。
昔、九条がくれた、消しゴム賽子。
親指と人差し指ではさんで眺めてみる。やはり無駄によく出来ている。
眠気覚ましに何か飲もうと階段を下り、台所の冷蔵庫を開けて麦茶を手に取った時、少年の声が聞こえた。
「なあ、ニシキはホンマにそれでエエの?」
辺りを見回すが、誰もいない。
「ココや、ココ」
水槽の方を向くと、陸に上がった亀山がこっちを見ていた。
「亀山!?あなた、関西出身だったの!?」
「ツッコミそこかい!って、まあエエわ。ある欲求の成就が不可能となった時、代わりの満足を得るために、別の目標に向かって行われる行動。これ即ち、代償行動という」
「……私の心理を読んだのね」
「ミシシッピニオイガメは仮の姿。本当のワイはCBIの捜査チームと共に、人の心理を巧みに操り凶悪事件を次々と解決する亀のメンタリスト。即ち、カメンタリスト。来たコレ」
あまりのくだらなさに黙った錦に、
「どしたん?遠慮せんと笑ってエエねんで」
「……疲れてるみたい。もう寝るわ」
ハッと気がつくと、時刻は午前3時前。机の上に突っ伏して眠っていたらしい。
念の為、下に降りて、亀山と呼んでみたが、当然返事はなかった。