ひとりぼっちの上司と私

「疲れているなら、今日でなくても構わないが……」
「いえ。久しぶりにヤスダさんと釣りがしたいです!」

 いったん引こうとした俺に、彼女が力強くそう言った。

 キラキラした目に見つめられて胸が高鳴り、これはゲームの話だ……!と自分に言い聞かせる。

「じゃあ……九時頃から始めるのはどうだ?」
「その時間なら絶対に大丈夫です。残業にならないように、午後の仕事、気合い入れていきますね」

 まるで、本当にデートの約束をしたかのごとく残業回避を宣言する加納の姿が眩しい。

 ……だから、ゲームの話だ。ゲームの話。

 先にオフィスへ戻っていく彼女を見送った後も、自分を現実に戻す言葉を、何度も胸の内で繰り返し呟く羽目になった。


 定時は過ぎているものの、普段よりは早めに退社していそいそと帰路につく。

 自宅の最寄り駅から帰る途中でコンビニに寄り、【新発売】と書かれたカップ麺をかごに入れる。言うまでもなく、加納と共通の話題が欲しいからである。

 が、やはりカップ麺だけというのは気が引けるので、レトルトの煮物と野菜ジュースも追加する。

 それと、ゲームをする時に素面でいるよりは多少酒が入っていた方が緊張が解けるのではないかと、缶のハイボールを棚からふたつ手に取った。

 あまりアルコールに強い方ではないので、これで十分足りるだろう。

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