ひとりぼっちの上司と私
行方知れずだった歌代社長がふらりと商品企画部のオフィスにやってきたのは、終業時間である午後六時半を一分ほど過ぎたタイミングだった。
「ちょっと、誰か僕のアイデアを聞いてくれる?」
鼻にかかった甘い声は、社員になにか頼みごとがある時の、社長の必殺技。
四十代半ばには見えない若々しい見た目をしていて、私なんかよりよほど流行にも敏感。スーツに合わせるシャツの色は毎日様々で、今日は鮮やかな紫色だ。
唐突な社長の登場に嫌な予感を感じ取った先輩たちは、ひとり、またひとりと帰り支度を始め、「お先に失礼しま~す」と社長の脇をすり抜けて退社していく。
大企業ではあり得ない扱いだと思うのだけれど、小規模でアットホームなタイニーポケットでは、社長はちょっぴり面倒な人、という位置づけなのだ。
「うーん、みんなプライベートが充実していて忙しいようだね。……あれ? 加納さんは帰らないの?」
「え、ええと……はい」
社長と目が合ってしまい、恐縮しながら頷く。
私は昼間のミーティングで話していたグミモチーフの商品について、あまりに不甲斐ない意見しか出せなかったために、スマホでSNSをパトロールしながら情報収集している最中だった。
その姿が暇そうに見えたのだろう。歌代社長はパッと目を輝かせた