ひとりぼっちの上司と私
「だったら、ちょっと僕の話に付き合ってくれないかな?」
ですよねー……。
にこにこしながら「もちろんです」と答えるが、内心冷や汗をかいていた。
なにしろ、社長は一度なにかを思いつくと、それを商品化するビジョンまで一気に思い描くとともに、それを企画書に起こすよう、私たちに命じる。
彼のアイデアは、かつて大手おもちゃメーカーのデザイナーだった経歴を感じさせる素晴らしいものばかりだし、時間のある時ならもっと喜んで聞かせてもらうのだけれど……今はちょっと、タイミングがよくない。
もしもひと通り話を聞いた後で『じゃあさっそく企画書を』なんて言われたらどうしよう……。
軽く腕時計を確認する仕草をしてみるけれど、隣のデスクの椅子を引いた社長はそこに勢いよく腰掛け、新しいカプセルトイのアイデアを嬉々として語り始めた。
どうやら日本全国の名産品をミニチュア化した商品らしいけれど、誰もが知っている名物ではなく、地元民にだけ愛されているような、隠れた名品を扱いたいらしい。
「それでね、加納さん。ご当地シリーズをやるからには、やっぱりその地元に詳しい人に協力を仰がなければならないと思うんだけど、きみにも一シリーズお願いできる?」
「えっ。私……ですか?」
「うん。ダメかな?」