ひとりぼっちの上司と私
緊張しすぎて、変に力が入ってしまった。
顔の見えない電話でよかったと心の底から思う。だって、今の私は絶対に赤くなっている。
ひとりで照れくささに耐えていると、耳元で彼の優しい息遣いを聞いた。
『了解。これからは、いいことも悪いことも加納に聞いてもらおう。……またこうやって電話してもいいか?』
「はい! いつでもどうぞ!」
彼に見えるはずがないのに、スマホを片手にブンブンと首を縦に振る。
スマホから『ふっ』と小さな笑い声が聞こえ、彼が優しく目を細めているであろう姿を想像する。それだけで、鼓動が速くなる。
『ありがとう。結構長く話してしまったから、今夜はもう休もうか』
「そ、そうですね」
私はまだまだ話していたかったけれど、さすがにそれを口に出す勇気はない。
今はちょっと舞い上がりすぎているので、落ち着きたい気持ちもあった。
『じゃあ、また明日会社でな。おやすみ』
「おやすみなさい」
通話の切れたスマホを耳から話してデスクに置き、心なしか熱のこもった息を吐く。
『またこうやって電話してもいいか?』――だって。そんなの、いいに決まってる……。
彼との会話を反芻すると、胸が詰まって苦しくなる。
いつの間にか目の前の画面に映っているのはユリコだけになっていて、波止場に佇む彼女もまた、去ってしまったヤスダさんに思いを馳せているように見えた。