ひとりぼっちの上司と私

「ありがとうございます。この牡蠣(かき)のプルッと感にまだちょっと納得いってないので、もう少し工場とうまく相談してクオリティ高めたいんですよね」

 サンプルの内のひとつを手に取り、しげしげと観察する。

 貝殻の片側を外した状態の牡蠣と、陶器の器に入った牡蠣グラタンのミニチュアがひとつになったキーホルダーだ。

「あ~。わかる。こう、生牡蠣を手に持って揺らした時の、あのプルッと感でしょ? 確かに、もうちょっとだけ白い部分の透け感欲しいかもね」
「ひだひだはめっちゃいい感じだから、そっちだけ妥協するのももったいないし」
「グラタンの焼き目も、もうちょっとだけ濃くしない? 容器にくっついてチーズが焦げた部分」
「なるほど……。担当者さんに伝えます」

 私は先輩たちの意見を集約し、ノートパソコンのキーボードを叩く。

 自分の意見が的外れだったとしても言うだけ言ってみる、というチャレンジができるようになったし、なによりこういう議論をしている時、最高にワクワクするようになった。

「じゃあ、今日はこの変で。台紙とミニブックの校正はできてるんだっけ?」
「はい。週明けに印刷所へ戻します」
「順調だね。週末は英気を養って、また月曜からがんばろ」

 そう言って、さりげなく私を労ってくれる我妻さん。以前より身近な存在になったとはいえ、やっぱり彼女はカッコいい先輩で、私の憧れだ。

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