ひとりぼっちの上司と私
雄馬の手の力が一層強くなり、もはや大声を出して誰かに助けを求めるしか――と、最終手段に出ようとした寸前だった。
「――ごめん、待たせた」
こちらに駆けてくる足音が聞こえたと思ったら、隣にはやや呼吸の乱れた須田さんが立っていた。
信頼している彼の顔を見たら張り詰めていた緊張がふっと途切れ、鼻の奥がツンとするのがわかった。
「すだ、さん……」
ぽつりとその名を呼ぶと、彼はほとんど視線の動きだけで頷く。その仕草はまるで〝任せろ〟と言ってくれているようで、心許なかった気持ちが次第に落ち着きを取り戻していく。
「彼女になにかご用ですか?」
彼は毅然とした態度で尋ねながら、私を拘束する雄馬の手をさりげなく掴んだ。
私があれだけ抵抗してもまったく歯が立たなかったのに、雄馬が力を抜いたのか、須田さんの腕力が彼に勝っているのか……どちらにしろあっさり私の手首は解放された。
「あ、あなたは?」
「加納莉々の上司。――かつ、恋人です。他に質問は?」
きっぱりと断言した彼に、嘘だとわかっていても胸が騒がしくなった。
雄馬が昨日も私を待ち伏せていたことは須田さんも知っているし、目の前で私が困っていたから、見て見ぬ振りができなかっただけ。
恋人だなんて言ったのも、雄馬をけん制するのに最も効果のありそうなセリフを選んだだけ。
心の中で繰り返し唱えながらも、凛とした横顔に目が釘付けになってしまう。