ひとりぼっちの上司と私

「単なる昔話よ。それで、須田くんは今どこに勤めているの? あなた、同期の誰にも相談しないで転職しちゃったでしょう? もしかして遠山物産よりも条件のいいところにヘッドハンティングされたとか?」

 興味津々といった感じに、瑠璃川さんが須田さんの顔を覗き込む。

 これまで、ぴくりとも表情を動かさなかった彼が、口元だけでぎこちなく苦笑する。

「……本気で言っているのか? 同期の中で誰より成績の上がらなかった俺だぞ」
「でも、取引先からの評判はよかったわ。もう少し続けていたら、遠山物産でもきっと活躍できたのに」

 ふたりの会話を聞きながら、須田さんが前の職場で限界を迎えてしまった理由がなんとなくわかる気がした。

 成績はよくなくても、取引先からの評判はいい。それもある意味彼らしいと思った。

 でも、営業というのは数字で判断されてしまう場面の多い職種だ。頑張って誠意を尽くしても、結果にうまく繋がらない。そのジレンマで、須田さんはずっと苦しんでいたんだ。

 私は思わず、握っている彼の手に、空いている方の手も添えてギュッと握った。

 ここには、あなたを頼りにしている部下がいる。須田さんは代わりの利かない存在だと、どうしても伝えたかった。

 須田さんが、すう、と息を吸う音が聞こえる。

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