ひとりぼっちの上司と私
ゆっくりと前へ
「……加納。この案は正気か?」
「もちろんです。すでにデザイン案を送って業者に見積もりを出してもらいましたし、社長からのオッケーも出ています。あとは須田さんの許可さえもらえれば、展示会イベント当日に間に合います」
須田さんとの初デートから、およそ三週間が経っていたその日。
私は営業部の彼のもとへ出向き、一月の展示会イベントに向けてのある提案事項を、彼に確認してもらっていた。
須田さんは少し前まで薄くなっていたはずの眉間の皺を深め、ジッと書類を睨んでいる。
しかし、彼が答えを出す前にデスクの上の電話が鳴り始め、彼は受話器を取る。相手は社外の取引先なのか、顔は怖いままだが丁寧な受け答えをしていた。
「はい。承知しました。それでは後ほど――」
受話器を戻した彼は一度ため息をつくと、やや申し訳なさを滲ませて私を見た。
「すまないが出かける用事ができた。返事は帰ってきたらする」
「わかりました。……あの、いいお返事を待ってます」
「あまり期待するな。個人的な感情だけで言わせてもらうなら、正直やりたくないと思ってるからな」
そっけない口調で言いながら、素早く外出の準備を整えて営業部を出て行く須田さん。
……やっぱり、最近の彼の様子はおかしい。
スーツの広い背中を見送りながら、私は胸の内で呟く。
きっかけは、どう考えてもデート中に遠山物産時代の同僚、瑠璃川さんに会ったことだろう。