ひとりぼっちの上司と私

 * * *


 あの日、彼女に会った後、私たちは予定通り窓から夜景の見えるレストランで食事をした。

 気取らない雰囲気だがカジュアルすぎるわけでもなく、初デートにはぴったりの素敵なお店だ。

「わぁ……このマグロのタルタル、味付けはシンプルなのに芳醇なお味。スパイスもいいアクセントになってる」

 私は楽しいデートの雰囲気を取り戻そうと、やや過剰にリアクションして彼に笑いかける。

 美味しかったのは本当だし、元々マグロは彼の好物だから、少しは気分が明るくなるのではないかと期待して。

 しかし、彼の視線は窓の方に固定されたまましばらく動かなかった。かといって夜景を見ているわけでもなさそうで、時折ワイングラスを口元へ運ぶ動作をぼんやり繰り返しているだけだ。

「須田さん?」
「ごめん。……なにか言ったか?」
「このお料理、美味しいですねって」
「あ、ああ。そうだな」

 ようやく彼は微笑んでくれたけれど、ワインだけ飲んでまだ料理には口をつけていなかったので、適当に話を合わせているだけなのが嫌でもわかってしまった。

 結局、彼は最後までお腹に入れるのはお酒ばかりで、いくつかの料理は食べきれずに下げてもらった。

< 149 / 205 >

この作品をシェア

pagetop