ひとりぼっちの上司と私
空腹のままアルコールを大量に摂取したせいか、帰り道での彼の足取りは少し覚束なかった。
千鳥足とまではいかないけれど、手を繋いで歩いている私と、五秒に一回くらいは軽く体がぶつかる。
その状態で私のアパートの最寄り駅まで来てくれたものの、改札を出たところでまた体がぶつかったので、思わず彼の両腕に手を添え、彼を〝きをつけ〟の状態にして言う。
「もうここで大丈夫です。この後、須田さんがちゃんと帰れるかの方が心配になっちゃいますから」
「そうか? ……別に俺は酔ってないけどな」
「どの口が言うんですか。ほら、もう一度改札を通って。あ、ホームを間違えないでくださいね」
大きな背中、というか腰の辺りを押し、彼を改札機の方へと追いやる。
彼はぼんやりした顔のまま胸ポケットからパスケースと取り出し、ICカードを機械にタッチしようとして――なぜか一度、ぴたりと動作を止めた。
もう一度パスケースを胸元にしまい、踵を返して私の方へ戻ってくる。
目のまえで立ち止まった彼は、無表情で『ん』と言いながら両手を広げた。
「えっ? ……なんですか、この手」
「なにって」
ふ、と普段よりとろんとした顔で笑った彼が、距離を詰めてくる。
ドキドキしたし、こんな状況でなければうれしかったかもしれないけれど……。
このまま彼の胸に甘えるのはなにか違う気がして、私は両手でそっと彼の胸を押し返す。