ひとりぼっちの上司と私

「……ごめんね、食べたらすぐ仕事するつもりだったよね」
「いいんです。昼休みに仕事してると鬼上司の誰かさんがうるさいし。我妻さんはもうご飯食べたんですか?」
「私は大丈夫。昨夜、このクッキーの失敗作食べ過ぎて、まだ胃もたれしてるの」
「わ~、夜中にキッチンで格闘するその感じ、私も若い頃やりましたよ~懐かしいです。彼氏さん、どんな方なんですか?」

 興味津々に尋ねると、我妻さんはいじいじと人差し指どうしをくっつけて、私をちらりと見る。

「年は……十個も上。なのに手作りクッキーが欲しいとか、変な人よね」
「すごく大人の方なんですね。優しく甘やかしてくれる系ですか?」
「ううん、全然。むしろ超ワガママ」
「えっ。それもまた珍しいタイプですね」

 我妻さんより十歳年上ってことは、四十代でしょ?

 その年でワガママな男性って……なんだかイメージが湧かない。

「でも私、入社した頃からずっと片想いしてて……」
「入社? ……ってことは、この会社の人なんですか! えっ、誰だろう……!」

 小さな会社なので、たとえ普段かかわりのない部署でも名前を言われればだいたい顔が浮かぶ。

 該当しそうな年齢層の男性陣をひとりずつ頭に思い浮かべていると、ふいにガチャっと商品開発部のドアが開いた。

 そこから現れた人物の顔を見るなり、我妻さんが慌ててテーブルの上のジンジャークッキーを隠すように手で覆う。

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