ひとりぼっちの上司と私
「お疲れ様です。例の件、検討していただけましたか……?」
ありったけの期待を視線にこめて、彼をジッと見つめる。
須田さんは入り口のドアを閉めると、立ったままそのドアに背を預けて腕を組んだ。静かに目を伏せて、なにか考えている。
緊張しながら彼が口を開くのを待っていると、須田さんは一度組んでいた腕をほどき、宙を仰いでため息をついた。
「そんな馬鹿らしいこと、やりたくない。というのが最初に抱いた感想ではある。が……」
一瞬、断られるのかと思ったものの、彼の言葉には続きがありそうだ。
須田さんは私を見つめ、久しぶりに鬼の仮面を捨てたかのごとく、肩の力が抜けた笑みを浮かべる。
心臓が、トクンと優しい音を奏でた。
「それじゃ、俺たちの仕事を馬鹿にするお前の元カレや、あからさまに会社を値踏みしてきた瑠璃川と同じだよな。お前の案は悪くない。展示会の成功もかかってるし、全力で付き合うよ」
「須田さん……ありがとうございます!」
ペコッと頭を下げると、彼がゆっくり歩み寄ってくる。
そして、持っていたビジネスバッグから私が昼間渡した書類を取り出し、ある箇所を指さした。
「ただし〝マグロ〟は俺に譲れ。他の人には任せられない」
「もちろんです! そう言うと思って、須田さんの頭のサイズで発注書を作ってあります」