ひとりぼっちの上司と私
俺のマグロと同サイズのホタルイカがモチーフで、十本の脚の内の長い二本に赤いリボンがついている。
イカとはいえデフォルメされている姿なので、なかなか愛らしい。動くたびに発光器を模したラメがキラキラ光るのも綺麗だ。
「……じゃあ、撮るぞ」
「はーい」
ただじっとしていた俺とは違い、加納はキャラになり切っているのか、楽しそうに頭を左右に揺らす。
ふと、正月に電話で彼女と会話が脳裏によみがえった。
『展示会、頑張りましょうね。というか、楽しみましょう! 私、自分の会社のなにが好きかって、皆さんが楽しそうに仕事をしていることが一番なんです』
今の彼女は、自らの言葉をそのまま体現しているよう。
……俺も、もう少し加納を見習った方がいいかもしれない。俺と彼女では立場も与えられている役割も違うものの、少なくとも今は、控室の在庫を心配して難しい顔をする時ではない。
開場を前に高まっていた不安や緊張が、波のように静かに引いていく。
「撮れたぞ。確認してくれ」
「はい。……あ、かなりいい感じですね。ありがとうございます!」
「こっちこそ。……朝からお前には助けられてばかりだ」
自然と笑みがこぼれ、目の前の彼女に温かな愛おしさを覚える。手を伸ばした俺は、ホタルイカのかぶりものをポンポンと軽く叩いた。
被り物の中から上目遣いで俺を見る加納の頬が、ほんのり赤く染まる。