ひとりぼっちの上司と私
「な、なにもしてませんよ? 私」
「気づいてないだけだ。お前はすごいよ、本当に」
そう言って、今度は脚の部分を手で弄ぶ。
本人に直接触れるのは憚られるが、被り物の上なら許されるだろうという狡い考えもあった。
「――あー、そこのふたり。種族を超えた禁断の愛を育まないように」
展示会用の拡声器を手に、俺たちに忠告するのは我らが歌代社長だ。彼自身もまた、別の被り物を頭につけている。
俺と加納は気まずくなってパッと離れたが、社長は単にからかっただけなのだろう。ニコニコしながら俺たちの方へやってくる。
「どう? 僕の紅ズワイガニっぷり」
「すごくお似合いです!」
「まさか、社長までそんなに乗り気だとは……いえ、似合ってはいますけど」
当たり前だが、社長自らが展示会に来ている会社はそう多くはない。来ていたとしても、社員たちと同じスタンスで参加しているのは、歌代社長くらいだろう。
「せっかくのお祭りなんだから、楽しまないと損だよ。ほら、マグロくん。僕のこともカッコよく撮影してくれたまえよ」
「……はいはい。かしこまりました」
撮った動画はその場で広報部のSNS担当がうまく編集し、俺たちのブースの場所を示す会場マップや商品の宣伝と共に、リアルタイムで投稿してくれる。
「お客さん、たくさん来るといいですね」
「来るさ。僕たちの商品にはそれだけの魅力と価値がある」
「……全力を尽くしましょう」
やがて開場時間を迎え、ブースの前に並んだ俺たち三人は目を見合わせて頷く。
入場してきた大勢の人々の数とその熱気に圧倒されそうになりながらも、俺たちは改めて気合いを入れ直した。