ひとりぼっちの上司と私

「おはようございます。け、賢哉さん」

 昨日はタイミングを逃して私からは呼べなかったので、もごもごしながらも初めて彼の下の名前を口にする。

 賢哉さんは驚いたような顔をするとともに、たちまち耳まで真っ赤にして大きな手を口元に当てた。

「昨日の夜を乗り越えれば大丈夫だと思ったが」
「えっ?」
「自分のぶかぶかな服に身を包んだ無防備な彼女に、上目遣いで名前を呼ばれる……。朝から理性を試されるシチュエーションすぎるな」

 必死でなにかを堪えているように、眉間に皺を寄せる賢哉さん。しかし、直後にちらりと私を見た。

「……ダメだ。かわいい」
「え」
「キスしてもいいか?」

 真正面から聞かれ、かぁっと頬に熱が集まる。当然ダメなわけはないけれど、彼がこんなにもキス魔なのはとても意外だ。

「お付き合いする前までは、賢哉さんってもっとクールな人かと思ってました」
「それは……そうかもな。俺でさえ、自分がこんな風になるとは思っていなかったし……。ご期待に添えず申し訳ないとしか言いようがない。……幻滅させたか?」

 不安そうな彼に瞳を覗かれたものの、私はすぐにかぶりを振った。

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