ひとりぼっちの上司と私

「ふたりとも騙すようなことをしてごめんね。サクラってわけじゃないんだけど、時々普通のプレイヤーみたいに遊んで、自分の手で新機能や不具合を確かめたい時があるんだ。だから、基本は誰とも交流しないんだけど……」

 そこで一度言葉を留めた直哉さんが、ちらっと一瞥したのは賢哉さんの顔だ。

「莉々ちゃんは、兄貴の暗黒時代を知ってる?」
「暗黒……遠山物産にいた頃のことですか?」
「そうそう! そっか……やっぱり彼女は全部知ってるんだね。俺以外に話せるようになったのって、すごい進歩じゃん」

 直哉さんが感慨深そうに頷く。その姿を見ていたら、彼がどれほど兄である賢哉さんを心配していたのかが伝わってくるようだった。

 もしかしたら〝イザナミ〟として私たちと交流を図っていた理由も……。

「兄貴にゆうメロを勧めたのは俺だし、ヤスダっていう安直な名前を使っているのも知ってた。そんな兄貴に、ゲームの中で親切にしてくれる人がいるんだって聞いてさ。本当は、親切を装って兄貴から金銭をだまし取ったりする悪い女の人なんじゃないかって、ちょっと疑ってたんだ。それでユリコさんに接触した」

 賢哉さんのゲーム内での行動を少し見れば、その親切な女性が『ユリコ』というプレイヤーだというのはすぐにわかったらしい。

 それで、イザナミとして私に接触し、チャットを通じて色々な話をすることで、悪人かどうかを見極めようとしたのだそうだ。

< 195 / 205 >

この作品をシェア

pagetop