ひとりぼっちの上司と私

 彼にベーグルをひとつ手渡され、そのカラフルな見た目につい〝これをガチャにしたら……〟という考えが浮かぶ。

 クリームチーズにスモークサーモン、オニオンスライス。それにハーブが何種類か使われている。

「これ、ミニチュアにしたらかわいくないですか?」
「まぁ、見栄えはいいだろうな。しかし、カフェの商品というのは人気が出やすい反面、ありがちなテーマでもある。なにか特色を出さないと、企画は通せない」
「ですよね……さすが鬼の営業本部長」

 がっくり肩を落とすと、賢哉さんがふっと苦笑した。

「ほら、仕事のことを考えるのはほどほどにして、食べるぞ」
「ちなみに、食べ終わったら、さよなら……ですよね。私、昨日の服だから帰らなきゃだし」
「別に、その後また会えばいいだけだろ。恋人なんだから」

 恋人……。何度言われても、その甘い響きに感動してしまう。

「じゃあ、今日こそ海の方へ行ってみますか? 昼間の温かい時間なら気持ちよさそうです」
「ああ。お前の行きたいところならどこへでも付き合うさ」

 彼とこんな会話をしていると、告白する前に一度デートした時の地に足のつかないくすぐったさとはまた違う、確かな幸せがどんどん積み上がっていく気がする。

 これからもずっと、こんな日々が続いていきますように――。

 初めて彼の自宅で朝食を共にした朝、窓から差し込む冬の日差しのように温かい時間が、ゆっくりと流れていった。

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