ひとりぼっちの上司と私
【このマグロを寿司にする機能はないんでしたっけ?】
【ないですよー笑 水槽で飼うか、リリースするかです。逃がしても、大きさの記録はちゃんと残ります】
ユリコさんが親切に教えてくれる。
その記録というのはどこの画面で見るのだろうと新たな疑問が湧くが、質問ばかりで迷惑をかけたくないので、また今度にしようと思う。
ヤスダは海の方へ向き直り、マグロをリリースした。
【マグロのお寿司が好きなんですか?】
【はい。好物です】
【私も好きだけど、最近食べてないなー】
他愛無い会話をしながら、ふたり並んで海に釣り糸を垂らす。チャットは一度途切れるが、なにも話さなくても居心地は悪くない。
それがこのゲーム『夕波メロウ』の魅力だろう。
家にいながらにして、海辺でぼんやりする気分を味わえる。最初のチュートリアルさえ達成できれば、後は好きなことをすればいいだけだ。
【そろそろ落ちますね。おやすみなさい】
日付が変わる前に、ユリコさんはログアウトの挨拶をして自分の別荘へと戻っていった。
プレイ時間は基本的に夜で、土日なら昼間からプレイしていることもある。
その生活リズムから、彼女もおそらく社会人なのだろうとなんとなく予測している。