ひとりぼっちの上司と私
このゲームを勧めてくれた人物からの情報では、そもそも夕波メロウというゲームのターゲットが、俺のようにリアルな社会に疲れ、なにかしらの癒しを欲している社会人らしい。
社交的で親切なユリコさんからはあまりくたびれた印象は受けないが、彼女もなにかに疲れているのかもしれない。
ユリコさんが画面からいなくなると、俺もなんとなくゲームをやめて椅子から立ち上がる。
座りっぱなしで凝り固まった体を伸ばすように目いっぱい背伸びをすると、デスクに置いていたスマホが鳴った。
こんな時間に電話をしてくる相手は、ひとりしかいない。
そう思いながら、スマホに表示された名前を見る。予想通り【直哉】だった。三歳年下の弟だ。
「直哉……今、何時だと思ってるんだ?」
『お、起きてたー。ってことは兄貴、ゆうメロやってたんじゃない?』
挨拶もナシに会話を始めるのはいつものこと。図星だろ、と言わんばかりの、直哉のドヤ顔が脳裏に浮かぶ。
なにを隠そう、このゲームの開発者は彼なのだ。
「……さっきやめたところだ。でかいマグロが釣れたんでな」
『結構楽しんでるじゃん。ちなみに大物を釣った瞬間の感想は? コントローラーのバイブ強度とか、けっこうこだわってるんだけど』
「寿司を作れるようにしてくれ」
『……寿司?』
直哉が戸惑ったような声を出す。会社では、あまり出ない意見なのだろうか。