ひとりぼっちの上司と私

「ああ。俺は別に、このゲームの釣り体験にリアルさは求めてない。それより、釣った魚でなにかうまいものが作れるようにしてほしい。さらに、その料理を他のユーザーに振る舞えたらもっといいかもな」

 ゲームの中で食事をしたところで腹は膨れないが、〝一緒に食事をする〟という体験を誰かと共有したいと思っているユーザーは多いのではないだろうか。俺みたいに孤独な人間はなおさら。

『もしかして、さっそくゲーム内で誰かと親しくなれたとか?』
「えっ?」
『いや、だってその発想……さっき釣ったマグロで、誰かに寿司を作って振る舞いたかったってことだろ? だとしたら、兄貴にこのゲームを勧めた甲斐があったなと思って』

 ホッとしたような直哉の声。

 ゆうメロの開発者としてではなく、弟として、兄が人と繋がりを持てたことがうれしい。そんな感じの反応だ。

「……そうだな。ゲームとはいえ、誰かに助けを求めたのは久しぶりだった」

 現在勤めているタイニーポケットでは、取締役兼営業本部長という、むしろ部下を助けなければならないポストに就いている。

 しかし、一般社員として働いていたその前の会社でも、俺は誰にも頼ることができなかった。

 前の会社というのは、誰もがその名を知っている大手の商社。俺はそこで営業をしていた。

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