ひとりぼっちの上司と私

「ええと……心ときめく仕掛けについて、ですかね」
「なるほど、了解。口で言うより見た方が早いと思うから、この部屋に置いてある過去のヒット商品からヒントを探してみようか」

 社長はそう言うと、大股でガチャマシンの方へ歩いていく。加納は焦ったように俺を見た。

「須田さんも社長になにかご用があったんじゃ……?」

 ……そうだった。

 俺は今の今まで存在を忘れていた手元の書類に視線を落とす。社長の大嫌いな銀行とのやり取りで、今日中に数字の確認をしてもらわなければならない。

 ただ、タイミングは今でない方がよさそうだ。俺は軽くため息をついて立ち上がる。

「取り込み中のようだから、後で出直す」
「いいんですか? お邪魔でしたら一度席を外しますが」
「こっちは急ぎじゃない。お前の方こそ、社長の熱が冷めないうちに話を聞いておけ」

 冷たい言い方をするつもりではなかったのだが、加納はびくりと肩を竦め、〝余計なことを言ってすみません〟と言わんばかりの怯えた顔をした。

 困っている彼女を助けたかったというのに、俺が追い詰めてどうする……。

 彼女をフォローする言葉を探しているうちに、加納は俺のもとを離れ、社長の方へ行ってしまった。

 ……人を頼るのも苦手なら、助けることも満足にできないのか俺は。

 間が悪いうえ空回りしてばかりの自分に落胆しつつも、小さな会社なので他にもやることは山積み。

 俺は気持ちを切り替えて、自分のデスクがある営業部へと戻るのだった。

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