ひとりぼっちの上司と私

「……とりあえず入るか。腹、減ってるんだろ?」

 先に口を開いたのは須田さんの方だ。しかし、ユリコとして伝えたメッセージを私の意思として受け取られる状況が恥ずかしくて、彼の目を真っすぐ見ることができない。

「そ、そうですね。予約しちゃってますし」
「三人ではなく二人になったと伝えなくてはな」

 須田さんがガラッと引き戸を開け、店内へ足を踏み入れる。私はすっかり小さくなりながら、部下の顔で彼の後ろをちょこちょことついていった。


 店員に案内されたのは、オフ会用にと私が予約していた、掘りごたつのある個室。

 席の手前で靴を脱ぎ、須田さんと向かい合って座布団に座る。

「ドリンクメニュー、見るか?」

 テーブルの端に設置されたタブレットをホルダーから持ち上げ、須田さんが私に差し出す。

「お先に須田さんからどうぞ」
「俺はビールでいいから見る必要がない」
「そ、そうですか。では……」

 相変わらず気まずい空気の中、遠慮がちにタブレットを操作する。

 一応見せてもらったものの、私も一杯目はビールでよかったかも……。

 素直にそう言えばいいのだが、鬼上司の前ではそんなささいなことすら言いづらい。

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