ひとりぼっちの上司と私
迷っているふりをしてメニューを眺めていると、須田さんのポケットの中で、スマホが鳴った。
軽く眉をひそめた彼が、画面を見て言った。
「……問屋からだ。少し話しても構わないか?」
「どうぞどうぞ! お待たせするのも申し訳ないので……!」
私が返事をするや否や、須田さんはスマホを耳に当て、表情をきりりと引き締めた。仕事用のスイッチが入った感じだ。
問屋さんは、私たちメーカーと、実際にガチャの機械を置いてくれる色々な店舗との間を取り持ってくれる重要な存在。
私がこれから作ろうとしている新商品も、店に並ぶ前に、まず問屋さんに〝これなら売れそうだ〟と思ってもらえることが大切になる。
その窓口をしているのが営業部なので、大切な話はこうして責任者の須田さんに直接回ってくることもしばしばだ。
「お世話になっております。須田です。……ええ、今、大丈夫です」
ちらりと私の方を一瞥しつつも、彼は静かに電話の相手と話し始める。
その姿はいつもの須田さんそのもので、彼がヤスダさんだというのはやはり何かの間違いでは?という気がしてくる。
「増産? それは難しいですね。中国工場の方も、ぎりぎり品質が維持できるラインで頑張ってくれています。これ以上増やすと着彩が雑になり、我々の会社が作る製品を愛してくれている消費者が離れてしまいます。それでは本末転倒なので」