ひとりぼっちの上司と私
どうやら、問屋さんはうちの会社のガチャをもっと流通させたいと考えてくれているようだ。しかし、品質が維持できないからと、須田さんはバッサリと断っている。
売りたいガチャだと思ってもらえるのはありがたいけれど、景品の出来を見るお客さんの目は結構シビアだ。
同じシリーズの同じキャラが出たのにデザインが微妙に違うとクレームが入ることもあるので、安易に増産するのは危険。
須田さんは私よりずっとこの業界での経験が豊富だし、その辺りをよくわかっているのだろう。
「はい。再販の件は社内で検討して、来週お返事します。それでは、失礼します」
須田さんは手短に電話を切り上げ、スマホをジャケットのポケットにしまう。私はそのタイミングを待って、ふたり分のビールをタブレットで注文した。
「今、飲み物頼みました」
「ああ、ありがとう。……というか」
少し声のトーンを落とした彼が、ちらりと私を見る。先ほどの電話中に感じたしごできオーラは鳴りをひそめ、どこか自信なさげな目をしていた。
それから、なにか決心したように深呼吸をした彼は、テーブルに手をついて私に深々と頭を下げた。
「加納。……いや、ユリコさん。いつも、ゲームの中で迷惑をかけて申し訳ない」
「いえ、そんな……頭を上げてください! 迷惑だなんて思ったこと、一度もありませんから……!」
目の前で上司に頭を下げられるという信じられない状況に、私は軽くパニックになる。
須田さんはゆっくりと顔を上げたものの、心苦しそうに眉根を寄せたままだ。